これは、ホーネカンプ山本有先生(ドイツ公認臨床心理士、Duisburg在住)がいろいろな方から寄せられた相談やお悩みに共通するテーマへのお考えを、計三回のコラムにまとめてくださったものです。

はじめに

コロナ感染拡大予防のための外出自粛生活が長期化し、いったいいつになったらいつもの生活に戻れるのかと先を案じたり、苛立ちや焦りの気持ちを抱かれる方も多いことでしょう。 早くから、「高齢者は感染すると重症化する」という情報が浸透し、「感染すると危ないか ら外出しないほうがいい」と家族からも言われ、ワクチン接種が終了した後も引き続き、用心のため家に閉じこもりがちな高齢者、介護施設の中だけで過ごす高齢者が多いといわれています。 コロナ感染への不安から、買い物は回数を減らし、友人にも会わず、サークル活動も中止、人と話す機会や家族との会う回数も減り、デイサービス等の利用も控える、旅行どころか近所に花見にすら行かなかった人が多いのではないでしょうか。 買い物を控えるあまりに食事が偏ったり、食欲がわかず体重が減ったり、生活リズムを整えるのが難しくなったり、 関節などが痛むようになってきたり、体が思うように動きにくくなったり、食事中にむせるようになったり、眠れないようになったり、これまでは気にならなかった将来のことが不安 になってきたり、気持ちがふさぎ込んだり、物忘れするようになったと感じるようになった人もいるかもしれません。 テレビを観ていて「今日の感染者数」や「変異種が広がってきている」といったコロナ関連情報ばかりについつい関心が向き、感染への不安がさらにふくらみ、ますます外に出にくくなってしまった、そんな方もいることでしょう。 あまりにこのような不活発な生活が長引くと、身体機能や認知の機能に影響が出、その結果介護が必要な一歩手前の虚弱状態(フレイル)に陥る可能性が高くなります。日本のメディアでは、これまで活動的だった人の生活様式が、コロナ禍により自宅での閉じこもりに一変したことが引き金になって起こるフレイルのことを「コロナフレイル」と呼ぶようになりました。  

3つのコロナフレイル

フレイル状態は大まかに3つに分類されます。
  • 身体的フレイル:筋力低下、転倒リスク増大、自立度と活動力の低下、口腔の機能低 下による食事量の減少と栄養状態の悪化、体重減少、持病悪化など
  • 精神的フレイル:物忘れなど認知機能の低下、気力喪失、鬱 など
  • 社会的フレイル:独居による孤立、交流の場への参加や外出回数の減少など
なお、厚生労働省が作ったリストでフレイルの兆候をチェックすることができます。 身体的活動性が低下すると食欲も出ず、さらに筋力が落ち、体は動きにくくなります。人と接する機会から遠ざかると、生活への意欲や生き甲斐が感じにくくなり、結果、フレイルが悪循環しやすくなります。  

フレイル状態の改善・予防

幸いなことに、フレイルのサインに気づき早期に生活を見直すことで、フレイル状態の改善は可能であることがわかっています。以下、コロナ禍にあってもフレイルを予防する方法をご紹介します。運動、栄養、社会生活がキーワードとなります。

運動

感染対策を行いつつ、無理なくできる運動を見つけ、始めてみましょう。 人込みを避けて散歩、ラジオ体操、ストレッチ、皿洗いや歯磨きをしながらかかとの上げ下げや足踏み(ふらつくときはつかまるか、座って行う)、アパートの階段をゆっくり上り下り、庭いじり、足の裏を床にしっかりとつけ、足の指だけを全力で上げて10 数えてから指を元に戻す(座っていてもできます、テレビを観ながらどうぞ) 等がお勧めです。 外に出て陽にあたり新鮮な空気を吸うのは気分転換になるほか、紫外線を浴びる事でビタミンD(骨の維持)の生成が行われるため、天気の良い時は 10分でも15分でもいいので外の空気に触れましょう。

栄養

免疫低下の原因にもなる低栄養状態の予防のため、バランスよく食べ、水分もしっかりとりましょう、筋力の低下を防ぐにはタンパク質をつとめて取ることが大切です。しっかり嚙み、口を大きく動かして歌をうたったりすることで、嚙む力の衰えを防ぐことができます。 また、飲み込む力が弱くなると、知らないうちに食事や唾液が気管支や肺に入り炎症を起こすことがあります(誤嚥性肺炎)。これは、口の中にいる細菌が原因で起こるため、口の中の健康を保つことで予防できるといわれています。食後の歯磨きなどの口腔ケアをお忘 れなく。

社会生活

コロナ禍であっても、家族や友人知人とのつながりを絶やさないような工夫をすることが、心と体の健康を保つためには重要です。手紙やメール、電話、SNS などを積極的に使いましょう。 お隣さんと数分立ち話、買い物や散歩で外に出た時に犬を連れた人を見 つけたらワンちゃんに(他人はダイレクトには話しかけにくいですよね)ちょっと話しかけてみる、でもいいのです。外での散歩や日光浴などは、感染対策をきちんとすれば数人で行っても安全です。 コロナ禍でサークル活動などが中止になっているとき、参加者の人々は各々孤立しているのにそれを恥じて引きこもっている恐れがあります。孤独感は自分だけで はなく、じつは皆に平等に起きていることだとわかれば、それは恥ずかしくもみっともないことでもないと気づけます。孤独を感じる人同士が会えば、お互いが孤独を感じずにすみま す。 さらに、買い物や病院への通院などに困ったときに助けを呼べる相手を考えておくと、より安心でしょう。

離れて暮らすご家族へ

最後に、離れて暮らす高齢者の方を家族にお持ちの方へ。家に閉じこもっていることによる フレイルのリスクについては上記で述べた通りです。連絡を取るときには「元気?」と漠然 と聞くのではなく、「今日は外に出たの?」「お昼ご飯は何食べたの?」「ストレッチはもう終わった?」「昨夜は眠れた?」など、体調について具体的に尋ねることで、離れていて もフレイルの兆候のチェックをすることができます。 さて、例えば、お年寄り本人がもし旅 行に出たいと言ったら、感染リスクを理由に中止すべきなのでしょうか。出かけることが、 今かなわなかったら、もうこのまま、どこにも行かれなくなってしまうかもしれない、とお 年寄りは不安に思っているかもしれません。そういう時は、感染リスクと旅行に出る場合の利点について、皆さんでよく話し合って納得のいく判断をすることが大切です。 次回は、孤独をテーマにお話する予定です。

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