以下は「海外在留邦人・日系人の生活・ビジネス基盤強化事業」の一環で2021年11月21日に開催されたオンライン公開講演会「新型コロナ~ドイツの現状と今後のゆくえ」での森由紀子先生(ノイゲバウア・馬場クリニック内科医)の講演をまとめたものです。図入りPDFはこちらからダウンロードできます。

まだまだ「ポストコロナ」と言えない現状ですが、「ウィズ」でも「ポスト」でも感染症予防には同じことで、日ごろの自己免疫力を上げることが大切です。ロックダウンや在宅勤務やオンライン授業などの日常生活の変化は、免疫低下につながり、特にコロナを通して見られるストレスや運動不足、食生活の乱れが心や体の症状として現れています。たとえば、普段はそんなことはないのに頭痛が多くなった、息苦しさがつづくなどの理由で診療所を訪れる人が多くなっています。
自分自身でできる感染症予防の一つとして、免疫機能を保つことはとても大切です。そのためにできる具体的な対策は、「適切な睡眠」、「適度な運動」、「適切な食事」、「ストレス解消」です。

免疫

免疫には、もともと身体が持っている自然免疫と、ワクチン投与や罹患によって獲得される獲得免疫があります。これらの免疫には、リンパ球や好中球、マクロファージ、NK細胞などが関与し、細胞間情報伝達物質であるサイトカインも大切な役割を担っています。

適切な睡眠

睡眠不足が免疫に及ぼす影響として、例えば風邪から肺炎を合併するリスクが高くなったり(Sleep. 2012 Jan 1; 35(1): 97-101.)、インフルエンザワクチン接種後の抗体産生量が少なくなったり(JAMA. 2002 Sep 25;288(12):1471-2.)(つまりワクチンによって得られる抵抗力がつきにくい)、することがこれまでの研究結果として報告されています。コロナ感染と睡眠、燃え尽き状態の関係について調べた論文では、右のようなことが報告されています。

適切な睡眠のために気を付けることは、以下の通りです。(☞朝食は無理にとらなければならない、というものではありませんが、とることによって体内時計が朝を認識し、よりよい睡眠につながるとも言われています。)昼の昼寝は、ベッドではなく、ソファなどですることが勧められます。

適度な運動

適度に運動することにより、免疫細胞の機能が活性化して増殖し、抵抗力が上がります。また、血中の抗体の一種であるIgG、IgAが増加します。特にIgAは粘膜免疫に関わるものですから、ウィルスが体に入ってくるときに一番最初に接する部分の免疫に関わるものです。さらに、細胞間情報伝達物質であるサイトカインの産生能が改善されて、スムーズに情報が伝えられることにより、免疫反応がアップします。このほか、運動をするとストレスが解消されることも、免疫力アップにつながっています。

大切なのは、「適度な」運動であることです。運動不足も過度な運動も感染リスクがあがることがわかっています。適度な運動量というのは、個人によって異なりますが、一般的な目安は、一週間に3日以上、一日に20~60分間です。運動時間は一度にまとめてせず、一日の中で数回に分けてもかまいません。また、呼吸の乱れがなく人と会話できる程度がよいとされています。筋トレと有酸素運動を組み合わせるのが効果的ですが、ドイツの冬のように天気がすぐれず、暗い日が続くと、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動が難しくなるので、室内でストレッチやヨガなどを取り入れるとよいでしょう。

適切な食事

適切な食事のために気を付けるべきこととして、主に右のようなことが挙げられます。塩分は、一日の食事の食材そのものに含まれる塩分が約3gと言われていますから、調理の際に加える塩分をひかえることに注意しましょう。

栄養素の中で免疫に大きく関与するものをいくつか挙げたものが、以下ののスライドに示されています。栄養素の横に主にこの栄養素を多く含む食材を列記していますが、様々な食材が挙げられており、偏りなく様々な食材をとることが、免疫力を高めるために必要なことがわかります。

栄養素とコロナの感染リスク

ウイルス感染、コロナとビタミン、ミネラル、栄養補助食品、プロバイオティクスについて解析した下記の論文では、ビタミンA、ビタミンD、セレン、亜鉛の不足がウイルス感染と関連を示したことが報告されています。プロバイオティクスについては後述します。

ビタミンD

皮膚で7-デヒドロコレステロールが紫外線を浴びることによってプレビタミンD3に変化、更にビタミンD3に変化したあと血液を介して肝臓に運ばれます。更に腎臓へと至って活性型ビタミンに変化します。つまり、太陽の光を浴びることがビタミンDの摂取には大切になってきます。また、食事やサプリメントで摂取するものはビタミンD3です。日本の厚生労働省が作成した成人のビタミンDの食事摂取基準は、8.5 μg(マイクログラム)= 340IU(国際単位)です。ビタミンDに関しては、上述のとおり、日光浴が大切になってきますが、5.5 μgのビタミンD量を産生するために必要な日照暴露時間を札幌(北緯43度)を例に見ると、夏(7月)であれば、10分程度外に出ていると必要なビタミンDが産生されます。それが、冬になると9時で約497分半、12時で約76分半、午後3時になると2742分程度の暴露時間が必要になります。つまり、昼だけでも1時間以上になり、午後3時になると1日以上かかるということです。例えば、デュッセルドルフは北緯51度で札幌より更に北に位置しますから、札幌と同じく冬の間のビタミンD産生は不可能と考えてよいでしょう。

ビタミンD不足が関連している可能性がある症状や疾患は、下図の通りです。この中でも特に冬季うつ病と呼ばれる季節性感情障害は秋から冬にかけてうつ症状があらわれて、春先ごろによくなるというパターンを繰り返す周期性があるもので、発症原因はいまだ不明ですが、ビタミンD不足も原因の一つと推測されています。

ビタミンDの摂取方法で大切なのは、まず「屋外で日光を浴びる」ことです。窓ガラス越しの日光では、ビタミンDは生成されません。そして「食物から摂取すること」も大切です。ビタミンDを多く含む食品は、キノコ類、魚介類(鮭、イワシ、しらす、さば、サンマなど)です。サプリメントとして摂取することもできますが、不足の程度に応じて摂取量を調整する必要があります。日本人に対しての摂取推奨量は出されていませんが、アメリカの内分泌学会では、成人には1500~2000IU、小児には1000IUが推奨されています。

☞ 夏に日光浴を十分にすれば、貯蓄される場合もあるかもしれないが、特に女性は夏に日焼け対策をするため、夏でも日光浴によるビタミンD摂取が十分でない場合がほとんど。日本人の約8割がD不足と言われており、なるの日光浴だけでは補え切れていないことが分かる。
☞ ビタミン D が不足しているかどうか は、血液検査で調べられる。公的保険の場 合は、自己負担となる。
☞ サプリの中のビタミンDの含有量は表 記されているので、選ぶときの参考にな る。また、ビタミンDは油にとけて吸収さ れるものなので、サプリを飲むのは、脂質 をとったあとのほうがよい。

腸内細菌叢

腸内細菌叢とは、腸内にいる細菌のことで、およそ100兆から500兆個と言われています。人間の全身の細胞数が60兆個と言われていることから見ると、いかに多いかが分かります。理想的な腸内環境というのは、いわゆる善玉菌が2割、悪玉菌が1割、腸内最近の状態によって善玉にも悪玉にもなる日和見菌が7割というバランスだと言われています。

腸内細菌は勿論ただ存在しているだけではなく、非常に沢山の機能を担っています。たとえば、3000種類の酵素をはじめ、ビタミンやホルモンなどを作っています。また、身体に必要な栄養素を吸収しやすいように分解し、そして吸収する消化吸収にも作用しています。消化できない不要物や老廃物などから便を作り、対外へ排出するという機能も担っています。また、善玉菌が腸内腐敗を防ぎ、きれいな血液を保つという浄血機能もあります。更に、免疫にも大きく関与しています。腸内細菌が協力しあって、病原菌などの侵入を防ぎ、身体を守っているのです。また、有害物質を分解して解毒をサポートするのも腸内細菌です。

腸内細菌叢に影響を与える因子は、下図の通りです。プラスに作用する因子である「シンバイオティクス」というのには、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」があります。(右図)前者は、腸内細菌叢のバランスを改善する生きた菌のことです。ドイツであれば、ザウワークラウトもこちらに相当すします。後者は、善玉菌の増殖を促したり、悪玉菌の増殖を抑えて善玉菌を活性化したりすることで、腸内環境を整える食品のことをいいます。プロバイオティクスとして摂取した菌がたとえ生きたまま腸内に到達しなくても、死んだ菌はプレバイトティクスとして作用すると考えられています。

腸内細菌叢異常が認められる疾患

下に挙げられる疾患を持っている患者さんを調べてみると、腸内細菌叢に異常が見られます。腸内細菌叢に異常があることが、この病気の原因というわけではありませんが、腸内細菌叢が全身の臓器や免疫系に何らかの影響を及ぼしているだろうということが推測されます。

さらに腸内細菌叢が腸の中の機能だけにとどまらない、ということを示すものとして、「脳腸相関」という考え方があります。自律神経系やサイトカインといった物質による免疫系、ホルモンなどの内分泌系という回路を介して脳から腸に影響を及ぼすだけでなく、腸の方からも脳に影響を及ぼすのだという考え方です。具体的には、ストレスがかかると脳の方から情報が伝わり、消化器運動異常(食後のもたれ感・膨満感・便通異常など)や内臓知覚過敏(腹痛・膨満感など)の症状が現れるだけでなく、腸の炎症や腸内細菌叢の乱れから、不安や緊張など脳の方にも影響が出るということです。

つまり、腸内細菌叢を良い状態に保つことがストレス耐性を強めて、免疫力の維持にもつながるということが言えます。

ストレス解消策

ストレスの解消の仕方は人それぞれですが、いくつかの解消法を挙げてみます。まずは、「ストレスのアウトプットをする」ということです。何に対してストレスを感じているのか、どんなストレスを抱えているのか、などについて誰かに話したり、書き出してみたりすることで、頭の中で考えていることや感じていたことが具体的になります。そして、「呼吸に集中しながら、深呼吸を繰り返す」ことです。呼吸に集中することで、頭の中をいったんストレスの原因から切り離すことができます。そして、深呼吸によって副交感神経を優位にすることができ、リラックス効果が得られます。そして、「自分自身が楽しいと感じられることをする時間を作る」ことが大切です。楽しいと感じられることで目の前のことに集中して、ストレスの原因から気持ちや思考を切り離すことができます。セロトニンなどの神経伝達物質の分泌が促進されるので、ストレスの解消につながります。

この他、やはり「適切な睡眠」、「適度な運動」、「適切な食事」がストレス対策となり、ストレスが解消されたり、ストレス耐性が強まったりすることで、ストレスによる免疫低下を防ぐことができます。その結果として、コロナの感染予防につながります。