以下は「海外在留邦人・日系人の生活・ビジネス基盤強化事業」の一環で2021年11月21日に開催されたオンライン公開講演会「新型コロナ~ドイツの現状と今後のゆくえ」での馬場恒春先生(ノイゲバウア・馬場クリニック内科医/JAMSNETドイツ代表)の講演をまとめたものです。
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現在のドイツにおけるコロナ禍の状況

ドイツの現状では、7日間感染者指数(人口10万人当たりの1週間の感染者数)が過去最高になっています。

後遺症

そもそも新型コロナ感染とは血管に障害を起こす病気で、後遺症も大きな問題になっています。イタリアからは、発症から2か月たっても87%の方に後遺症が見られ、フランスからは、発症110日後でも30%の方に睡眠障害や集中力低下がみられたと研究報告されています。また、高齢者にとっては命の危険にもつながっています。もともと、糖尿病や高血圧、動脈硬化など血管に変化のある場合には障害が大きくなると言われています。

コロナ感染の診断

コロナ感染の診断は、現在、検査施設や医療機関、自宅で行われる確認のための抗原テスト(Schnelltest)がありますが、抗原テストは感染初期には陰性と出ることがあったり、自宅では食事や歯磨きのあとであれば陰性と出ることがあったりします。いずれにしても、抗原テストが陽性であった場合、確定診断にはPCR検査が必要です。ロベルト・コッホ研究所で出される感染者数の報告は、このPCR検査の結果を反映させたものです。抗原テストで陽性と出ても「快復者」とはならないことに留意してください。
PCR検査で陽性となった場合、その状態によって自宅隔離生活か入院治療となります。自宅隔離は担当医や保健所と連絡しあいながら症状を見て最低14日間必要です。PCR検査が陽性と出てから1か月(28日)以上が経過して「快復者」(Genesen)とされます。入院治療の場合は、48時間以内のPCR検査が2回陰性であれば「快復者」となります。

ウィルスとワクチン

ウィルスというのは、中身は遺伝子情報のみで自己増殖できませんから、他の細胞を利用して増殖します。ウィルスと人間との共存はとても長く、私たちの体の中にもウィルス由来の遺伝子があり、中には役にたっているものもあります。ヘルペスウィルスやB型肝炎ウィルス、麻疹ウィルスとも元は動物由来で人間に拡がったわけですが、現在、私たちがこれらのウィルスをコントロールできるようになったのは、ワクチンを開発して、身を守れるようになったからです。

コロナワクチンの種類

コロナウィルスは、外壁のスパイク(突起)部分で他の細胞に着床し増殖していきます。ですから、このスパイク部分が他の細胞に着床しないようにすれば感染や増殖を防げます。つまり、コロナウィルスのワクチンではスパイク部分に対する抗体を作ります。

ドイツでは、コロナウィルスワクチンには大きく分けて、二つの種類があります。メッセンジャーRNAワクチン(ビオンテック・ファイザー、モデルナ)とウィルスベクターワクチン(アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソン)です。ドイツの利用比率を見ると、11月現在で4分の3以上がビオンテックのワクチンです。副作用は、どれもおおよそ似たものがあります(下図参照)。ワクチン別では、アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソンのワクチンは1万人に一人の割合で血小板機能への影響があり、数百万人に一人の割合で血小板減少を伴う静脈血栓症を生じることが分かっています。このメカニズムと対応も徐々に解明されてきています。またモデルナワクチンでは、若年男性への心筋への影響があることが分かり、現在は若年男性への投与は控えられています。

ロベルト・コッホ研究所のデータ(41~44カレンダー週)では、コロナ感染をしても入院しないで済んだ人、死亡に至らなかったという人の割合が高く、コロナのワクチン接種の予防効果が高いことが分かっています。

ワクチン接種証明

ドイツのワクチン接種証明には、まず黄色いワクチン接種手帳(国際共通, Impfausweis)がありますが、現在はQRコードからスマートフォンのアプリにデジタル接種証明が通常になっています。日本で接種した場合には、日本の市町村で発行された接種証明(日英併記)がそのまま有効です。これをドイツの薬局、医療機関に持って行きQRコードを取得すれば、ドイツで有効なスマートフォンアプリをダウンロードして取り入れることができます。(執筆者注:全ての薬局で対応している訳ではなく、また日本の接種証明に慣れていない薬局などでは手間取る可能性もあるとのことです。)

コロナ関連の用語

夏から「入院率」(Hospitalisieurngsrate) が利用されるようになった背景には、ワクチンが普及しコロナに感染しても重傷化しないケースが増え、そのため感染者指数だけでは、重症化した人がどれくらいいて、病院がどれだけ逼迫した状況にあるのかが把握できなくなった、ということが挙げられます。ドイツでは、現在、この入院率を目安にして、3Gや2Gといった制限措置がとられることになっています。この措置は、これからも感染状況の変化や感染防御の政治的な方針で変化することですので、常に最新の情報を入手するよう、心がけましょう。

入院率と病床数のひっ迫度の関係

入院患者の登録が完了するのに2~3週間かかるため、入院率の値には、その日の報告数のみを考慮に入れて出される値と、実際はその日だったが後で登録された件も含めて出される「実際の値」があることが問題でした。つまり、全員の登録が完了する2,3週間先までに病床の実際の状況はもっと悪化しており、政策が現状に追いつかなくなっているという問題が生じていました。そこで、現在では現在のデータから2,3週間先の将来を予測するNowcast法という方法がとられ、制限処置の目安となっています。

感染者数は増えている原因

ワクチン接種がはじまったのに、感染者数が増えている原因として考えられるものは主に3つ挙げられます。一つ目は、変異株の拡大です。変異株というのは、ウィルスの設計図のミスコピーがもとで発生します。大抵のミスコピーは淘汰されるのですが、中に強いものが出てきて逆に主流株となる場合があります。例えば、今までは特にアルファ株(イギリス変異株)、デルタ株(インド変異株)がニュースになり、現在、オミクロン株が問題になっています。二つ目の大きな原因は、気の緩みがあげられるでしょう。ドイツでは、夏のバカンスで感染した人が多く、またカーニバルのニュースでも明らかになったように、人手の多い催し物でも制限ルールが徹底されていなかったり、ワクチン接種を済ませていれば何でも許されるとの誤解もあったしります。そして、3つ目として最も大きな原因は、ワクチン接種が滞り、ワクチン未接種者の感染が増えていることです。接種完了者の入院率はずっと平坦であまり変化がないのに対し、未接種者の入院率は夏以来ぐっと高くなっています。ワクチンの未接種率が高い州(地域)ほど、7日間指数も入院率も高くなっています。

ワクチン交差接種

交差接種は、アストラゼネカ社製を1回目に受けた場合の2回目接種(あるいは同ワクチンを2回接種した後の3回目接種、ジョンソン&ジョンソン社製を接種した後の追加接種)に適用されます。そして、2回目(あるいは追加接種)にビオンテック社製、モデルナ社製を受けることで、予防効果が高まることが確認されています。また、アストラゼネカ社製ワクチン接種の場合は、1回目と2回目の接種間隔が最短4週間まで短縮されることも利点であると言えます。そして、今あるワクチンを全て有効に使うためにも役立っています。

快復者の接種とブースター接種

一度コロナにかかって回復(コロナ感染症では「快復」と表現)しても、生涯免疫はできず、抗体が十分に出来なかったり、早い場合には3,4か月たつと抗体がなくなったりすることが分かってきました。快復者は、快復の基準を満たしてから1か月後から接種が可能です。また2回接種完了した人での効果も、およそ6か月で次第に下がることが報告されており、3回目接種(ブースター接種)が現在行われています。3回目のブースター接種はワクチン接種完了から6か月後からですが、ワクチン供給にゆとりがあれば5か月後から受けることができます。ジョンソン&ジョンソン社製は接種4週間後から可能となっています。

ブレイクスルー

現在「ワクチンを打ったのに感染してしまう」という現象を不安に思っていらっしゃる方が多いでしょう。日本では、この現象はブレイクスルー(Impfdurchbruch)と呼ばれています。そもそも「ワクチンが効く」というのは、ウィルスの量に対して抗体が十分にある状態のことをいいます。人混みなど、ウィルスが通常の量を越えて多い状況に身をおくことで、抗体があっても対抗できなくなり感染すること、より感染力のつよい変異株が増えることで、抗体の効力を超えた結果感染するということもありうるのです。また、ワクチン接種から6か月経過すると効果が弱まっていくこともブレイクスルーの原因の一つとなっています。

ワクチン接種の勧め

感染者の数が増えている現在、ドイツの集中治療室患者の95%がワクチン未接種者で(今夏の時点)、現在も大半がワクチン未接種者で占められている状態が続いてます。60歳以上でコロナ感染をすると、死亡に至る確率が高く、第5波の東京でも、死亡者の8割が未接種者であり、7割が60歳以上だと報告されています。また、ワクチンの効果について、最近の論文としては、New England Journal Medicine(米国の医学誌) でブースター接種の有効性が、そしてBritisch Medical Journal(英国の医学誌)で未接種者の死亡リスクが11倍になることが発表されています。

ワクチン未接種の理由

ワクチン接種を受けない人にはそれぞれ理由が色々あるようですが、そこには「自分は気を付けているから大丈夫」という気持ちや、同じ考えの人と同じ考えを確認しあう状況が確認されます。特に、気を付けなければいけないのは、インターネット検索の際のAI機能です。ネットでのショッピングでも検索したものに似たものがお勧めとしてどんどん出てくるようになっていますが、情報に関しても同じなことが起こりえます。つまり、一度、ネット上でワクチンに関する副作用やデメリットを謳う情報を読みだすと、似た情報やブログ記事がどんどん入りやすくなって不安や不信感を増してしまうということがあるのです。

ふたつの種類の抗体

コロナに感染してできる抗体とワクチン接種でできる中和抗体は、二つの全く別のものです。お医者さんに頼んでコロナの抗体を測ってもらう場合は、どちらの抗体検査 (Antikörpertest)をするのかをはっきりさせることが大切です。ただし、ある一定期間が経てば抗体がなくなることが分かった現在では、過去の感染を知る目的で行われる抗体検査の有用性はかなり限られていると言えるでしょう。

日本との比較

現在、日本での感染状況が劇的に改善していることが注目されます。これは、人種が何か関係しているのではないか、という説がありますが、同じアジア人種の韓国での今夏からの感染状況の推移を見てみるとそうとも言えなさそうです。いくつかの原因説明のうち、オリンピックとの兼ね合いもあり「短期間でワクチン接種したために集団免疫が成立した可能性」、「国外からの訪問客を抑えた効果説」などは、欧州(ドイツ)での秋からの感染増加と対比して考える上で興味が持たれます。日本の感染者数の激変はコロナを抑えるヒントが秘められている可能性があります。

インフルエンザ接種

日本感染症学会の9月28日の提言では、「今季のインフルエンザ大流行の可能性を予想し、積極的なワクチン接種を推奨する」となっています。理由として昨年のインフルエンザ感染者が少なく基礎免疫が低下していること、またコロナ感染が減ったことで他のウィルス感染が伸びる可能性が挙げられています。実際には、日本の定点調査の結果をみてみる限りでは、この冬に大流行するかどうかは、まだ分からないというのが実情です。ドイツではロベルト・コッホ研究所がインフルエンザワクチン接種を推奨する対象者をリストアップしています。また、ドイツでは、コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同日の接種が認められています。

冬の旅行

旅行は気分転換になり、ストレス対策としてメンタルに良好に働く面があります。大切なことは、直前まで、旅先の状況や制限処置、特に国外旅行のときにはドイツに戻ってきたときの待機措置に注意することです。また、ワクチン未接種率の高い国(地域)を訪れる際には気をつけて感染情報を確かめましょう。現在の旅行では、ワクチンパスポートと身分証明書は必須です。ホテルは、キャンセル可能なところが後で嫌な思いをしないためにも望ましいでしょう。日本への一時帰国については、帰国前にかならず条件を確かめることが重要です。とくに出国前の陰性証明は日本の様式(あるいは準じた様式)に特に注意を払ってください。

☞ ドイツからの日本人 帰国者はワクチン接種の有無にかかわらず、検疫所の 宿泊施設で6日間の待機が必要になりました。11日21日のお話の時にはありました待機期間の短縮 措置は現在は停止されています (12月1日の日本外務省の発表。詳細は在ドイツ日本国大使館の発表を参照) 。

(まとめ文責:デーヤック友の会広報 札谷。図はすべて©馬場恒春。転用不可。)